和解学の創成

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皇民化政策/同化政策

「皇民化」と「同化」はともに個人を一定の価値や規範に同調させるという意味では同じであり、皇民化政策と同化政策は時に混同されることもある。だが、「同化」は、他の文化や思想に自らを同一化させることであり、その動機は基本的に受動的であり、権力による強制が伴うものである。

同化政策は、同じ「国民」であるという前提の下、被支配者が伝統的に維持してきた言語、名前、宗教、食事、衣装、産業などにおける文化や慣習を放棄させ、支配権力の側の文化や慣習を受容させることを目的とする政策である。近代帝国主義の時代、同化は征服者の文明を「未開」「野蛮」たる被征服者に与える「恩恵」として聖化され、文化破壊も正当化された。

また植民地支配においては、宗主国における憲法をはじめとする法制度を植民地にも延長的に施行することも重要な同化政策の一環であった。この同化政策の代表的な実践国がフランスであり、日本ではこれを「内地延長主義」と呼んだ。

だが、日本では、台湾、朝鮮、樺太といった新領土に日本の法秩序と相容れない「旧慣」が存在する事情を尊重し、性急な日本法の施行は植民地統治に弊害を招くと考え、植民地に特別法を制定する旧慣尊重主義を採った。かくして「大日本帝国」に異法領域が生まれ、これが「外地」と呼ばれた。

この旧慣尊重主義の典型的な実践が植民地の戸籍制度に表れた。内地戸籍(戸籍法)/朝鮮戸籍(朝鮮戸籍令)/台湾戸籍(戸口規則)と地域別に固有の戸籍制度が敷かれ、本籍が内地/朝鮮/台湾のどこにあるかによって「内地人」「朝鮮人」「台湾人」という身分が決まるものとなった(「国籍と戸籍」の項参照)。

だが、文化面においては同化を強要しながら、参政権、兵役、公務員就任などの対国家的な権利・義務や、結婚、就職、就学などの社会的権利については法的または慣習的な差別が存置されることが多い。つまり「同化」は必ずしも「平等化」を意味しないのであり、同化政策は被支配集団を形式的に「国民」として包摂しつつ、支配集団との差別を当然とする統合であるといえる。

一方、「皇民化」は日本独特の概念である。支配権力に対する被支配集団の形式的な同化にとどまらず、より高次の精神的な同化、いわば名実ともに「日本人化」することを求めるのが「皇民化」である。

いうまでもなく皇民化において求心力の核となるのは天皇に他ならなかった。皇民化は「天皇の赤子」「忠良なる皇国臣民」としての精神的同一化、いわば天皇に対する帰服を意味した。

皇民化政策が「大日本帝国」における喫緊の課題として浮上するのは、1937年の日中戦争拡大以降である。ここで兵員確保の要請から朝鮮人、台湾人に対する徴兵がいよいよ準備されると、彼らに「皇軍兵士」としての自覚を醸成するべく、皇民化政策の推進が必須とされた。

「新附の民」としての朝鮮人や台湾人の「皇民化」とは、彼らを日本の建国神話に由来する、現人神・天皇を国の家長と仰ぐ「国体」という観念に帰依させることであった。朝鮮人、台湾人における国体観念の涵養の手段として行われたのが、「教育勅語」の暗誦、神社参拝の強要、そして「創氏改名」「改姓名」政策などであった。

異民族に「氏」をつくらせることがなぜ皇民化となるのか。朝鮮人や中国人には父系の血統を示す「姓」は一生不変とする伝統文化がある。一方、日本における「氏」は古代から天皇が「よき臣民」に授ける栄誉とされ、これを朝鮮人・台湾人に与えることは、「皇国臣民」としての一体化を示すとともに、「姓」に基づく民族的アイデンティティの解体を図るものといえた。

だが、「一視同仁」の名の下に皇民化政策を推進した日本政府といえども、戸籍制度の内地と植民地とでの峻別は維持し、民族を分かつ「血統」の識別に固執した。このように植民地政策においては、便宜的に同化主義と差別主義の使い分けが伴うものとなる。

遠藤正敬(早稲田大学台湾研究所 非常勤次席研究員)

 

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主要参考文献

朝鮮総督府情報課編『新しき朝鮮』朝鮮行政学会、1944年

朝鮮軍事普及協会編『朝鮮徴兵準備読本』朝鮮図書出版、1942年

伏見猛弥『世界政策と日本教育』大日本雄弁会講談社、1944年

林景明『日本統治下台湾の「皇民化」教育――私は十五歳で「学徒兵」となった』高文研、1997年