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2017年終戦記念日をめぐる『人民日報』報道の温度差(黄 斌)

The Difference of Opinion of The “People’s Daily” Coverage

over The End-of-war Memorial Day in 2017

黄 斌

HUANG Bin 

 

●2017年終戦記念日をめぐる「人民網」日本語版の報道には、日中関係改善へのシグナルが窺える。

●他方、中国語版『人民日報』の報道には、厳しい対日批判の論調が依然目立っている。

●『人民日報』報道の温度差には、中国政府内部の異なる声が映されている。

 

終戦記念日安倍首相の靖国参拝の見送り

2017年終戦記念日に、安倍晋三首相は自民党総裁として、靖国神社に玉串料を私費で奉納し、自身の参拝を見送った。代理として玉串料を納めた自民党総裁特別補佐柴山昌彦に、「参拝に行けずに申し訳ないが、しっかりお参りをしてほしい」と指示し(「安倍首相、靖国に玉串料奉納」)、複雑な心境を表した。

2013年12月26日、安倍首相は政権発足1年となる日に、日本の首相として7年ぶりに靖国神社を参拝した。第1次政権時代に参拝しなかったことについて、「痛恨の極み」と表明し(「安倍首相、きょう靖国参拝 政権1年、就任後初」)、靖国参拝の継続を仄めかした。それを受け、世界に衝撃が走り、中国・韓国など日本閣僚の靖国参拝を問題視してきた国々はもちろん、アメリカも直ちに「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」と表明し、「異例」と言われるほどの強い口調で牽制した(「安倍首相の靖国参拝に米国が異例の批判」)。日本の輿論では日米同盟の動揺を懸念する声が上がり、安倍首相もアメリカの警告を深刻に受け止め、以降靖国参拝を控えてきた。今年の終戦記念日にも安倍首相が靖国参拝を見送ったので、上述した懸念は大いに後退している。

日本側から見れば、日本首相の靖国参拝問題は、政教分離に関する国内問題の側面が本質である。しかし、関係諸国から見れば、これは過去の戦争の被害者たちの感情と深く関わる問題であり、且つ日中関係や日米関係などの国際政治と複雑に絡んでいるイッシューである。立場の違いにより、日本首相の靖国参拝に関する考え方が異なるのは当たり前であるが、それを日本国内問題のみとして捉えるのが非現実的となっている。ある意味で、アメリカの「失望」の表明により、同問題の「国際化」が一段と進んでいる。

中国はこれまでに靖国参拝に最も強く反対する国として知られている。日本首相の靖国参拝問題の「国際化」が進んでいる中、周辺諸国の反応、とりわけ太平洋戦争の最大の被害国である中国の反応が注目されている。

 

日中関係改善へのシグナルが窺える「人民網」日本語版の記事

そもそも中国には「終戦記念日」がなかった。終戦70周年の2015年から、ようやく9月3日を「抗日戦争記念日」として祝日とした。1985年の終戦記念日に、当時の中曽根首相はA級戦犯合祀後、日本の首相として初めて靖国神社を公式参拝した。それをきっかけに、中国政府は日本閣僚の靖国参拝を問題視し始め、毎年の終戦記念日の前後、靖国神社は中国のマスメディアの報道の焦点となっている。

安倍首相が今年の終戦記念日に靖国参拝を見送った直後、中国共産党中央委員会機関誌『人民日報』は、自社のニュースサイト「人民網」の日本語版で、「日本政府要人が靖国神社参拝 安倍首相は玉串料奉納するも参拝は見送り」という短い記事で簡潔に報道した。

同サイトは15日に、社説「歴史を直視して初めて恒久平和へ向かえる」や、社会科学院日本研究所厖中鵬副研究員の論説「8月15日―忘れることのできない記憶」を掲載した。そして、13日夜に放送されたNHKドキュメンタリー「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」を紹介し、大阪大学招へい教授田中弥生の「われわれ日本人は、この史実にどう向かい合うべきなのか。『見て見ぬふり』は許されないのではないか」というコメントを伝えた(「NHKが731部隊のドキュメンタリーを放送 日本人は『見て見ぬふり』複雑な気持ちに」)

翌日、同サイトは中国国内の記念活動を紹介する記事「南京で抗日戦争勝利72年を記念して国際平和集会」を掲載した。そして、厖中鵬副研究員や日本企業(中国)研究院の陳言執行院長に対するインタービューを紹介し、靖国参拝問題を解説した(「専門家 靖国参拝は世界への公然たる挑発」)。また、前日に続き731部隊に関するドキュメンタリーとその反響を報道し、日中友好8・15の会の沖松信夫代表幹事や、共同通信客員論説員の岡田充、長崎県被爆者手帳友の会の井原東洋一会長、銘心会の松岡環会長などのコメントを紹介した(「中国侵略日本軍の戦争犯罪を暴く 日本の識者が加害の歴史を省察」)。さらに、中国外交部報道官の記者会見を報道し、華春瑩報道官が同ドキュメンタリーを賞賛したことを伝えた(「歴史の真相を暴く日本の識者の勇気を賞賛」)

注意すべきことに、こうした論説に日中関係改善への明確なシグナルを送った。例えば、厖中鵬は上述した論説で、「歴史の経験と教訓は固く覚えておかなければならない。歴史の出来事が過去のものとなっても、歴史の事実は人々の間でいつまでも残り続ける」と主張し(「8月15日―忘れることのできない記憶」)、日本の閣僚の靖国参拝を従来のように牽制していると同時に、最近の日中関係の好転について次のように評価し、日本側に未来志向で靖国問題に取り組んでほしいという期待感を示している。

「中日関係は最近、改善と好転の傾向を示している。日本はこのチャンスを大切にし、両国関係改善に向けたしっかりとした具体的な行動によって、歴史の教訓を汲み取り、平和発展の道を守るという意欲を示し、国際社会が安心するような態度で、これまでとは異なる8月15日を歩み出すべきだろう」。

 

厳しい対日批判の論調が依然目立っている中国語版の報道

一方、15日の中国語版の『人民日報』には、日本語サイトにはない「勝利を勝ち取ってくれる人々を忘れるな」という短い評論を掲載し、抗日戦争に参加した老兵たちへの敬意を表したと同時に、抗日戦争における共産党の決定的な役割を強調し、平和の重要性を説いた。日本の靖国参拝に関しては、上述した「歴史を直視して初めて恒久平和へ向かえる」という社説のみを掲載した。

翌日、「歴史の真相を暴く日本の識者の勇気を賞賛」という記事のほか、NHK731部隊特集を詳細に紹介した記事をも掲載した。注目するべきことに、中国語版『人民日報』には当日の日本語サイトに見られなかった社説も掲載されている。

この社説は、「亡霊参拝を止められない日本が未来を語れるのか」というタイトルである。表題通りに日本政府の姿勢を猛烈に批判する内容が綴られている。安倍首相の玉串料奉納や、全国戦没者追悼式でアジア各国に対する加害責任に5年連続で言及しなかったことを取り上げ、「日本政府は懸命に歴史を否認し、隠蔽する」と名指しで非難している(「停不下拜鬼的日本何谈未来(钟声)」)。

社説の署名は「鐘声」である。「鐘声」は、中国語で「中声(中国の声)」と同じ発音である。人民日報国際部は2008年に同ペンネームのコラムを始めてから、中国政府指導部の意図を代言するものとして注目されてきた。

慎重に翻訳するためにほかの記事より時間がかかるか、または担当者は終戦記念日の直後にそれを掲載するのがあまりにも敏感と判断しているか、同社説は8月16日の人民網日本語版に見られず、終戦記念日2日後の17日にようやく見られるようになった(「亡霊参拝を止められない日本が未来を語れるのか」)。

 

『人民日報』の報道の温度差に映された中国政府内部の異なる声

人民網日本語版と中国語版『人民日報』の靖国参拝に関する一連の記事と「鐘声」の社説は、基本的な主張は同じであるものの、強調する側面や日本側の政府と民間の戦争反省の姿勢に対する評価は明らかに異なる。

外交部報道官の記者会見の様子を伝える記事では、過去の戦争に対する日本国内の反省を評価し、最近の日中関係の改善に期待感を示している。一方、「鐘声」というペンネームの社説では、日本の民間人の戦争反省の動きに触れながらも、従来の通りに日本政府に対する猛烈な批判を始終した。

ここには、日本への発信と中国国内への発信の違いが映されるほか、ジャーナリストや、外交部の実務者及び日本研究者たちと、中国政府の宣伝部門との温度差も窺える。現には、このような温度差は初めてではない。一枚岩のように思われがちの中国政府の内部にも、様々な声が聞こえる。そして、時間軸で見るにしても、日本首相の靖国参拝に関する『人民日報』の報道は一貫しているわけではなく、時代により大きな温度差が感じられる。

中国における新聞報道の仕組みは、日本と大きく異なっている。日中間の「和解」を考える上では、マスメディアの報道の差異を考慮する必要がある。特に内外発信の温度差については、過去のテキストを含めた詳細な検討が望まれる。

 

(早稲田大学社会科学部講師 bean@aoni.waseda.jp)