和解学の創成

  • 1872年東京 日本橋

  • 1933年東京 日本橋

  • 1946年東京 日本橋

  • 2017年東京 日本橋

  • 1872年8月〜10月北京 前門

  • 現在北京 前門

  • 1949年前後北京 前門

  • 1930年代北京 前門

  • 1895年台北 衡陽路

  • 1930年代台北 衡陽路

  • 1960年代台北 衡陽路

  • 現在台北 衡陽路

  • 1904年ソウル 南大門

  • 2006年ソウル 南大門

  • 1950年ソウル 南大門

  • 1940年代初ソウル 南大門

2021年3月13日(土)歴史家ネットワーク班主催、国際ワークショップ「歴史と和解学」が無事に開催を終了しました。

2021年3月13日、歴史班が国際ワークショップ「歴史と和解学」を開催しました。今回のワークショップは、共催先の早稲田大学東アジア国際関係研究所と華東師範大学からも協力を得た。

ワークショップはオンライン会議で実施され、8本の報告から構成される。ワークショップのプログラムは本文の後半にある。

8本の報告は内容に応じて、1970年代の米中和解を機に東アジアに生じた秩序再建と、和解における市民や歴史家の役割に焦点をあてたという二種類に大別する。言い換えれば、前者は国家間の和解の政治的プロセスに、後者は国民間の心の融和にフォーカスするものと捉えることができる。

前者の報告は5本ある。そのなか、姚昱報告は、台湾問題を米中間の政治問題として捉えた上、その歴史的経緯を回顧する。そして、台湾問題が今日まで存続しつづけてきた原因について、1970年代初期の米中接近は和解ではなく、緩和に止まったためと論じている。

陳波報告は、米中接近後、台湾独自の核開発へのアメリカの対応を考察したものである。

両氏の報告内容は、今日の米中情勢を考えるには示唆に富んでいる。

梁志報告は、米中接近から強いインパクトを受けた韓国が、米韓同盟関係を捉え直した一連の動きを考察するものである。徐顕芬報告は、米中両国の指導者が、相互接近をはかる際、日本の軍事的脅威についての意思疎通を考察した。タンシンマンコン報告は、米中和解を境に、タイ政府の対中対応の変容を分析している。そのなか、対中接近に傾けたタイ政府が、中国イメージの操作をもって、国民への説得に努めたとの指摘が興味深いものである。

国民間の心の融和にフォーカスした報告は三本ある。

野口真広報告は、歴史教科書を手がかりに、台湾と日本の歴史教育政策を比較し、その比較結果をもとに、日本の歴史教育関係者が台湾の多元性を参照する必要があると主張する。

森川裕二報告は、中国学派の系譜についての考察とともに、日中の政治学者と歴史学者の事例を紹介しながら、感情記憶とロゴスの統合・発展のための課題を論じた。

鄭成報告は、中国とロシアは政治的和解が実現できた一方、心の和解が実現していないという現状認識のもとで、中国社会に新たに形成したロシア像が中露両国国民の心の和解を阻んでいると指摘する。

総合討論のセッションで、総括を行う劉傑代表は、以下のポイントを中心に発言した。

東アジアの歴史を一つの歴史として捉え、「グローカルヒストリー」の感覚を歴史研究に応用し、国家間、地域間のつながりを重視する必要がある。

複数の報告では、和解が思う通りに進まなかった原因について、歴史上の当事者の間違った情勢判断という「誤判」(間違った判断や認識)が挙げられている。今日なら往々にして「誤判」と片付けられたという当事者の判断は実は、当時では安全保障の一環として提起された側面もあった。このような「誤判」がいったいどのように発生したのか、その深層原因を追究することは、いまだに「誤判」が付きまとう我々にとっても意義が高い。

劉傑代表はまた、大国同士間の和解を検討する際、大国視点だけでなく、周辺国の視点を研究に取り入れ、周辺国の人々の気持ちを大切にすることの必要性を唱えた。さらに、和解研究において、政府と市民の関係への考察も重要だと語った。和解は政治的プロセスだけでなく、人間同士の和解をも含めるからである。人間同士の和解を追求するために、各国の研究者同士の努力が重要な意味を持つ。そして、研究者同士の努力を通じて、公共知の構築がはじめて可能となる。

劉傑代表の発言から触発され、姚昱教授は、和解が思う通りに行かなかったり、国民同士の交流が躓いたり、国民感情が悪化したりする時、研究者同士の意見交流が最後の砦となるだろうと発言した。姚昱教授のこの発言はワークショップのハイライトとなり、参加者から同感を寄せられた。

 

「歴史と和解学」ワークショップ

プログラム

 

10:00〜10:10  開催趣旨

劉傑(「和解に向けた歴史家共同研究ネットワークの検証」研究代表者)

10:10〜11:10  「米中和解のなかの台湾問題」

姚昱(華東師範大学教授)

「歴史教育政策に関する日本と台湾との比較」

野口真広(早稲田大学東アジア国際研究所招聘研究員)

コメンテーター:梁志、段瑞聡(慶応義塾大学教授)

11:15〜12:15 「米中和解と米韓同盟関係の転換」

梁志(華東師範大学教授)

「米中和解に対するタイの対応」

タンシンマンコン・パッタジット(早稲田大学助教)

コメンテーター:陳波、森川裕二

14:00〜15:00 「米中和解と米国の台湾核武器開発介入の関係」

陳波(華東師範大学准教授)

「政治学と歴史学の対話―中国学派への視線と課題を中心に 」

森川裕二(長崎大学教授)

コメンテーター:徐顕芬、野口真広

15:10〜16:10  「米中和解のなかの日本問題」

徐顕芬 (広島市立大学准教授)

「中露和解と中国の研究者」

鄭 成    (早稲田大学准教授)

コメンテーター:姚昱、李恩民(桜美林大学教授)

16:20〜17:00    総合討論

劉 傑 (総括)

 

文責:鄭成(早稲田大学准教授)